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本当のシンプルとは? 7人の専門家たちによる思考レッスン。 - VOGUE JAPAN

多くの問題は、要素の盛り込みすぎに起因している。(千葉雅也/哲学者)

Photo: Peshkova/Shutterstock.com

要素を減らすことの大切さは、大学でも学生によく説きます。ほとんどの問題は要素の盛り込みすぎに起因しているからです。重要なのは、枝葉末節は一旦脇において本質を見るということ。例えばある作品についての評論を書くとき、優先されるべきは自分が作品に対してもっとも評価する部分=一番太いストーリー。それ以外は、潔く諦めるのです。僕が仕事上、シンプルという意味で意識しているのはそういうことです。 

ただし、何を優先して何を諦めるかの判断は、複雑な計算の上に成り立っていることも事実です。機械学習と同じで、物事の重要性を比較するという経験(ビッグデータ)を積むことでしか手に入りません。つまりシンプルな振る舞いは、ある程度時間をかけて獲得するものなのだということを忘れてはいけません。

一方で、最終的には、ものを判断するためには自分の素や体の癖のようなものが大事だとも思います。人は経験を積む過程で、社会的な要請などによって規範化されていきます。自分の癖を直すわけです。でも、自分にとって大事な勝負事こそ、そうした癖が力を発揮することがある。僕も今まさに、そうした自分の素や癖を取り戻そうとしているところです。

シンプルであるとは、 公平であるということ。(池田純一/デザインシンカー、コンサルタント)

Photo: Rawpixel.com/Shutterstock.com

今の時代、理系だけでなく文系の分野においてもエビデンス主義が強まっていると感じます。しかし、そのエビデンスは本当に客観的かと問えば、多くの数式の根幹には実は過去に成功したプロトコルがあるわけで、それに従って導き出された答えが「公平」であるとは決して言えません。あるいは、自分の立場や立ち位置からモノを言うポジショントークが狭い空間で増幅し続ける社会において、見える風景は当然のことながら偏りがあります。それは非常に危険な状態です。NYで生活していたときも、日本で紹介されている言説の偏りを痛感し、危機感を覚えた経験があります。  

そうしたことからも、自分の仕事のもっともシンプルな原則として、公平であるかどうかを常に意識しています。世の中には、いろんな都合を持った人たちがいて、それぞれが自分の都合を優先して生きているという前提で、ときに過去の視点に立ってみたり、違う場所から眺めたりして、常にそうした都合の均衡点を探ることが自分の役割だと思うからです。決して主唱者になることなく、常に外部者として、全体を見渡すに足る指針が見つかる場所=コマンディングハイツを探しているとも言い換えられるかもしれません。

オリジナルであることより、 取り替え可能を目指そう。(富永京子/社会学者)

Photo: encierro/Shutterstock.com

経験値が蓄積されて自分の戦法が確立されると、私たちは、ついアウトプット先や業績から逆算して最短ルートを辿ろうとします。確かにその方が無駄は省けるでしょう。でも、アウトプットを考えずにやった仕事の方が、実は面白かったり自由だったことに気づきます。結果に依拠しない豊かさがあるのです。  

業績志向の強い状況下では、それを中心に人生の優先順位を決めがちです。私はそこから脱するために、意図的にこれまで軽視してきたことに周りを巻き込みながら取り組むようにしています。人を巻き込むことで責任感が生まれ、自ずと優先順位が高まるからです。  

また、私のような研究領域だと、誰がやっても同じような結論が出る研究が普遍的であり、「シンプル」なのではないかとも思います。多様性の時代、人々のコミュニケーションがどんどんハイコンテクストになる中で、私たちは「オリジナリティを獲得せよ」というプレッシャーに晒されていますが、多様な時代だからこそ、周りはこう考えているはず、なんて先回りせず、あるいは、自分は数いるモブの一人にすぎない=取り替え可能であると思えた方が、ずっと素直に自分らしく生きられるのではないかと思うのです。

世界を変える素朴な問いは常識を疑うことから生まれる。(孫 泰蔵/投資家、連続起業家)

Photo: Tiko Aramyan/Shutterstock.com

僕が投資している起業家たちは皆、社会を大きく変える可能性を秘めた魔法のようなテクノロジーの開発者たちです。興味深いのは、彼らの魔法のすべてが、ごく素朴な問いから生まれているということ。たとえば、プラスチックゴミをフォトポリマーに変える技術を開発した25歳の起業家、ミランダ・ワンは、「プラスチックゴミ問題をなんとかしたい」という至極シンプルな動機から、世界のプラゴミ問題を解決してしまうかもしれない発明を生み出しました。問いが素朴であればあるほど、社会に壮大なインパクトを与えることができるという好例ではないでしょうか。  

そもそも世界は複雑です。だから、物事の因果関係を「AだからB」などと単純に捉えるのはナンセンスです。ゆえに、結果から逆算して計画することは一見効率的に見えて、実は非常に非効率的だと言えるでしょう。そんな中で素朴な問いを立てるためには、まず目の前にある常識を疑うこと。あまりに当たり前すぎて疑う余地もないような常識に、あえて意識を向けるのです。そうして「メタ認知」を持つことで、だんだんと見えない枠に気づくことができます。素朴な問いは、この見えない枠に隠れていることが多いのです。

問題を遠くから捉えると、 ソリッドな構造が見えてくる。( 篠田真貴子 /「YeLL」取締役)

Photo: artcasta/Shutterstock.com

私たちの周りには、大量の雑多な情報が流れています。シンプルであるために私が実践しているのは、まずは、そのぐちゃぐちゃの複雑さの中に私たちは生きているという前提に立った上で、目の前にある課題の構造を捉えること。世界の複雑さの一面だけを切り取って、ボタンを押せば商品が出るというような単純な関係を見出すことをシンプルであると捉えるのは、あまりに単純すぎると思います。 

例えば目の前に300ピースのパズルがあるとして、その1ピースだけを拾って全体像を理解しようとするのは独りよがりです。構造を捉えるというのは、そうではなくて300ピースの山をいろんな方向から眺め回して、これはたぶん長方形の海の写真のパズルだろうと客観的な仮説を立てる行為と似ています。経験値のなせる業でもありますが、そのように問題を捉えることで、その後の進むべき道がより鮮明になります。  

この時に私が大切にしているのは、問題や課題の構造をなるべく遠くから捉えること。つまり問題の歴史、成り立ちまで遡って調べたり、周辺の雑音も含めて捉えるという意味です。そうすることで、より普遍的かつ強固な構造が浮かび上がってくるのです。

アンビバレンスに宿るシンプルの本質。(石川善樹/予防医学研究者)

Photo: Zoran Milosavljevic/Shutterstock.com

シンプルさとは、意図して目指すというよりも、結果的にそうなっていくことだと思います。目的地に辿り着くためにいろんな道を進んでみた結果、より多くの人が通った場所が踏み固められて、新しい獣道が出来上がるというイメージです。  

また、直感的に「シンプル」には、引き算したシンプルさと足し算したそれの2種類があるように思えます。前者は、どんどん色を引いていき、最終的に「白色」になるシンプルさ。後者は、さまざまな色を足した結果「黒色」になるシンプルさ。確かに、白も黒もシンプルの象徴のような色です。これを漢字で考えると、「玄人」と「素人」という字が当てはまります。どちらにも「糸」が入っていますが、もともと「玄」はさまざまな色を重ねて作る黒い糸、「素」は雑色を漂白して作る白い糸を指す言葉でした。でも、シンプルが2種類あるというのは、なかなかに複雑です。  

調べてみると、「simple」の語源はラテン語で「折りたたんで一つにする」という意味だそう。つまり本質的なシンプルさとは、玄人と素人が一緒になって融合を目指す行為と捉えられそうです。さまざまな人が歩くことで、何もないところに獣道が出来上がるように。 

世界のさまざまな問題はすべて連関し合っている。(大崎麻子/ジェンダー・国際協力専門家)

Photo: SFIO CRACHO/Shutterstock.com

世界には、貧困や環境、暴力などの複雑な問題が山積しています。こうした問題に取り組む際に有効なのが、共通のフレームワーク作りです。例えば森林資源の問題において、CO₂削減のために森林への立ち入りを禁止すれば、その天然資源に頼って生活していた女性たちが困窮します。彼女たちの娘の労働時間も増え、通学できなくなる。水汲みの途中で暴力に遭うかもしれません。そうして女子教育が進まなければ、次の世代の乳幼児死亡率が減ることもありません。人間の生活に関わることは、すべて連関し合っているのです。  

こうした問題をそれぞれ単独の問題として扱えば、表層的には整理されたように見えても、むしろ複雑さを増すことが多い。しかし、例えばSDGsの「“誰一人取り残さない”世界の実現」のように共通の目標のもとでフレームワークを作り、専門家たちが自分の持ち場が他の領域に及ぼす作用を認識・共有し、ともに戦略を立てるプラットフォームを持てれば、複雑な問題の力学が可視化されます。私にとってシンプルとはそういうこと。持続可能な社会に向けた変革を起こすには、フレームワークを作り、多様な力を集結させ、より戦略的に目的を達成していくことが不可欠です。


Profile
千葉雅也
哲学者。1978年栃木県生まれ。東京大学教養学部卒業後、パリ第10大学、高等師範学校への留学を経て、東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻博士課程修了。現在は、立命館大学先端総合学術研究科教授。著書に『勉強の哲学 来たるべきバカのために』(文藝春秋)、第41回野間文芸新人賞に輝いた『デッドライン』(新潮社)ほか。

池田純一
デザインシンカー、コンサルタント。1965年生まれ。コロンビア大学大学院公共政策・経営学修了(MPA)、早稲田大学大学院理工学研究科(情報数理工学)修了。電通総研、電通を経てメディアコミュニケーション分野を専門とするFERMAT Inc.を設立。著書に『デザインするテクノロジー』(青土社)、『〈未来〉のつくり方 シリコンバレーの航海する精神』(講談社)ほか。 

富永京子
社会学者。1986年生まれ。北海道大学経済学部卒業後、東京大学大学院人文社会系研究科修士・博士課程修了。現在は立命館大学准教授として、「国際社会入門」や「国際セミナー」などの科目を担当している。今年3月、約1年間のオーストリアでの研究生活を終えて帰国。著書に、『みんなの「わがまま」入門』(左右社)ほか。    

孫 泰蔵
投資家、連続起業家。1972年生まれ。連続起業家、ベンチャー投資家。大学在学中から一貫してインターネットビジネスに従事。2009年、2030年までにアジア版シリコンバレーのスタートアップ生態系をつくるべく、シードアクセラレーター、MOVIDA JAPANを創業。2013年には、世界の課題解決のためのスタートアップ支援を目指し、Mistletoeを設立した。

篠田真貴子 
「YeLL」取締役。1968年生まれ。日本で大学卒業後、銀行勤務を経て、アメリカの大学にて修士、MBAを取得。大手外資系企業で働いた後、2008年に東京糸井重里事務所・現㈱ほぼ日入社。CFOとして10年間務め上場にも携わるが、2018年11月に退任。約1年間の“ジョブレス”な日々を楽しんだのち、2020年3月にYeLLの取締役に就任。 \

石川善樹
予防医学研究者。1981年生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がよりよく生きるとは何か」をテーマに、企業や大学と学際的研究を行う。著書に『フルライフ 今日の仕事と10年先の目標と100年の人生をつなぐ時間戦略』(NewsPicksパブリッシング)ほか。 \

大崎麻子
ジェンダー・国際協力専門家。1971年生まれ。コロンビア大学で国際関係修士号取得後、国連開発計画(UNDP)に勤務。世界各地でジェンダーと女性のエンパワーメントのプロジェクトを手がける。2005年からフリーの専門家として国際機関やNGO、大学など、国内外で活動。著書に『エンパワーメント 働くミレニアル女子が身につけたい力』(経済界)ほか。      

Editor: Maya Nago

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May 30, 2020 at 10:13AM
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