ナチス・ドイツなどの迫害を逃れてリトアニアにやって来たユダヤ人ら避難民に日本への「命のビザ」を発給した外交官・杉原千畝。ただ、彼の行動が知られる過程で、実像とは懸け離れた話も広がっている。多くの証言や1次資料を掘り起こしながら明らかにした、杉原の実像とは。『杉原千畝の実像』を出版した人道の港調査研究所(福井県敦賀市)の古江孝治氏に聞いた。 【写真】貴重な証言をする古江孝治さん ■「避難民らがかわいそうだった」 ──杉原の四男・伸生氏が「千畝の人間性まで掘り起こして分析されている」と評価しています。
伸生氏から生前の杉原について多くの証言を得ました。またビザ発給当時の状況など、外交電文といった当時の資料を読み解くことで、彼の心の中に分け入ってビザ発給までの決断と覚悟に迫りました。これまでの杉原像とは違う点も明らかにしました。 ──ビザ発給は「避難民らがかわいそうだった」からという杉原の率直な気持ちが印象的です。 当時の外務省の訓令は「ビザ発給の要件を満たしていない者にビザを出すな」でした。事実上の発給禁止です。ただ、杉原はドイツの動きを分析した結果、「ユダヤ人をここに残しては、すべてが迫害・殺害される」と確信していたことがわかります。杉原は生前の1977年に日本のテレビ局とのインタビューで「避難民は行くところがない、後ろからドイツが来るから、日本を通ってよその国へ行くのだ」と訴えています。「(ビザ発給を)断ったら、どこへ行くかね。かわいそうだ」と率直に述べています。それこそ、行動の原点だったと思います。
──リトアニアを離れる列車の中でも多くの人にビザを発給したという逸話がありますが、実際は「5、6人だった」と指摘されています。 ソ連軍兵士が駅で不審者を監視しており、多くの避難民が駅のホームまでやって来て杉原にビザを求めることは難しい。杉原は「5、6人にサインをした」と述べています。監視をすり抜けた避難民は実際にはその程度だったのでしょう。ドラマチックな光景で語られたりしますが、当時の状況を考えるとそれはなかったと思います。
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